クララ登場の100年前
Passageのあまたある棚の中で、気になる棚の一つが翻訳家 阿部賢一さんの本棚です。ご自身の翻訳新刊を中心とした選書の数々がずらりと並んでおり、納本の際につい手を伸ばして購入すること数知れずです。本書は、その阿部賢一さんの本棚からの1冊。1920年、チェコの作家 カレル・チャペックによる戯曲。
自宅書棚でしばし積読状態になっていたところ、先日読了した頭木弘樹さんの「自分疲れ」2章で本作品が参照されていたことから、手にとってみました。
読み始めたら一気です。面白くて恐ろしい・・・・。
本作が現代に続くロボットワールドの始まりだということはかねてより知っていたのですが、良い意味で、想像を裏切られた（なので一気読みしてしまったのですが）ポイントがいくつかあります。
その１；SF小説かと思っていたら戯曲だったこと
序幕から第三幕の全四幕の戯曲。登場人物＆ロボットによる科白の応酬にゾクゾクします。
ちなみに、巻末の付録（本作発表後の著者による寄稿文複数）と阿部賢一さんによる解説 "『ロボット』あるいは世界文学のつくりかた"は本作同様に面白いです。
その２；登場するロボットは「機械」的ではなく、肉体を備えた「人間」的だったこと
ある素材から作られた製造物でありながら、命がありました。さらには知性も感情も・・・。
その３；泣いたり笑ったりの明るいファンタジーではなく、思いっきりダークだったこと
ロボット製造の目的はあくまでも「労働用」。人間はロボットによって「労働」から解放されるはずでした。しかし、工場で大量生産された知的なロボットたちは人間に反乱し殲滅を図ります。なんともダークで切ないストーリーでした。
この作品が、第一次世界大戦終結から2年後にチェコで発表されたという事実も意外で、いつの時代もロボット開発はテクノロジーの先端を走っているものだと思い込んでいたので、今回、きちんと向き合うまでは、それこそ勝手にUSや西ヨーロッパの作品かと勘違いしていました。
本作品に登場する「ロボット」をAIに置き換えると、今の時代にピタッと符号します。ロボット ヘレナが100年後にクララになって私たちの前に現れたのだと思うと、何とも不思議な気がしますね。
＜目次＞
序幕
第一幕
第二幕
第三幕
付録
解説 『ロボット』あるいは世界文学のつくりかた 阿部賢一
